誰にも言っていないことがあって、でも誰かには聞いてほしい。友達に話すと、次に会ったときに話の続きを待たれてしまう。SNSに書けば、見ている誰かの顔が浮かぶ。だから、自分のことを知らない人に、手紙で書いてみたくなる。
「匿名文通」で検索したのなら、書きたいことは、たぶんもうあるはずです。迷っているのは、どこで、誰に書くか。掲示板で文通相手を募集するのか、アプリを入れるのか、匿名文通サービスを探すのか。それぞれのいいところと気をつけたいところを、正直にまとめました。
名前を伏せると、書けることが増える
匿名で書きたくなるのは、やましいことがあるからではありません。相手が自分を知らなければ、何を書いても、それでまわりからの見られ方が変わることはない。それだけで、ずいぶん楽になります。
職場の人には言えない「この仕事、向いてない気がする」。地元の友達には言いにくい「もう戻りたいとは思ってない」。身近な人ほど、話の前後を知っています。知っているから、言ったとたんに何かが少しずつ変わってしまう。知らない相手なら、その心配はありません。受け取った人の前にあるのは、言葉だけです。
深夜ラジオにラジオネームでお便りを送るのも、たぶん同じことです。名前を伏せるのは、自分を隠すためというより、余計なものをいったん外すため。外してみると、思っていたより本音が出てきます。
ただ、匿名は別人になるための仮面ではありません。年齢を盛ったり、なかったことを書いたりしはじめると、手紙はすぐに疲れるものになります。伏せるのは、名前と居場所。書くのは、本当のこと。この線さえ守れば、匿名はかなり居心地のいい場所です。
手紙なら、即レスもいりません。既読がつくのを待って、何度もスマホを見なくていい。1日考えてから返事を書いていい。そのゆっくりさも、匿名文通のいいところです。
はじめる場所は、大きく分けて2つ
自分で掲示板に募集を出すか、間に入ってくれるアプリやサービスを使うか。匿名文通のはじめ方は、だいたいこのどちらかです。
掲示板は、自由です。無料で、すぐ書けて、返事をくれた人の中から相手を選べます。そのかわり、ふたりのあいだには誰もいません。何を書くか、何を伏せるか、どこで線を引くか。ぜんぶ自分で決めて、自分で守ることになります。
アプリやサービスは、そのいくつかを肩代わりしてくれます。ただ、どこまで肩代わりしてくれるかは、場所によってかなり違います。ほかの探し方もふくめて比べたいなら、文通相手の探し方もどうぞ。
掲示板で文通相手を募集するなら
掲示板の募集から、長く続く文通相手が見つかった人もいます。うまくいくかどうかは、募集文と、そのあとの線の引き方でだいぶ変わります。
募集文は、自己紹介より「お題」を
「20歳、大学生です。誰か文通しませんか」。これだと、届くのは1行だけの「興味あります」ばかり、ということになりがちです。相手が書けることが、何もないからです。
ゆっくり文通できる人を探しています。返事は数日に一回くらいで大丈夫です。お互い名前は出さずに続けられたらうれしいです。最近、帰りにひと駅手前で降りて歩くのにハマってます。返事をくれる人は、最初の一通に、あなたの最近の「寄り道」をひとつ書いてみてください。
ペースと、名前を出さずに続けたいことを先に書いておくと、合わない人は自然に離れていきます。お題をひとつ置いておけば、1行で済ませる人と、ちゃんと書いてくれる人の違いも、最初の返事でわかります。
気をつけたい4つのこと
- 募集文に、身元につながる情報を並べない。 年齢、住んでいる市、学校や職場。ひとつずつなら平気でも、並べると案外、誰だか絞り込めてしまいます。書くなら「20代前半、海の近くに住んでます」くらいで十分。掲示板の書き込みは、自分が忘れたあとも残ります。
- 連絡用には、本名やほかのSNSとつながっていないアドレスを。 アドレスから名前やインスタのアカウントにたどり着けるなら、それはもう匿名ではありません。
- LINEへ移るのは、急がない。 2、3回のやりとりで「LINE交換しよ」と言われたら、一度立ち止まっていい。LINEの名前やアイコンが本名や自分の写真のままなら、その時点で匿名ではなくなります。やりとりもただのチャットになって、やめにくくなる。手紙のペースが好きではじめたのなら、なおさら急がなくていいはずです。
- お金の話が出たら、そこで終わり。 切手代でも、ギフト券でも、「いい話がある」でも。相手がどんなにいい人に思えても、例外はありません。
写真を求められる。まだそれほど書いていないのに、やけに褒められる。返事が遅れると、妙にうしろめたい気持ちにさせられる。そういうときも、書くのをやめていい。見知らぬ相手に、説明する義理はありません。気をつけたいサインはほかにもあって、知らない人と安全に文通するにはにくわしく書きました。
匿名文通サービスを選ぶなら、ここを見る
アプリやサービスを選ぶときは、「匿名」と書いてあるかどうかより、しくみを見てください。目安は4つです。
- 本名も顔写真も、求められないか。 登録で本名を書かせたり、プロフィール写真が必須だったりするなら、匿名なのは表向きだけ。写真とスワイプがあるなら、文通というより、マッチングアプリに近いと思っていい。
- 知らない人に届く手紙が、届く前にチェックされるか。 連絡先の交換やお金の要求が、相手に届く前に止まる。それだけで、掲示板ならひとりで背負うはずの用心が、ずいぶん軽くなります。
- ブロックと通報が、すぐできるか。 手紙を読んでいるその場で、迷わず押せるところにあるか。ブロックした相手から、本当にもう届かなくなるか。
- 18歳以上に限っているか。 大人どうしの場所だと決まっていること自体が、ひとつの守りになります。
4つがそろっていない場所なら、掲示板と同じつもりで、自分で気をつけるのがいちばんです。
はじめの一通は、小さく、本音で
場所が決まったら、あとは書くだけです。匿名の手紙でいちばんもったいないのは、名前を伏せたうえに、中身まで伏せてしまうこと。「はじめまして、20代の会社員です。趣味は映画です。よろしくお願いします」では、相手は返しようがありません。
書くのは、今週あった小さなことをひとつ。知らない人への手紙にしては少しだけ踏み込んだ一文を添えて、最後に質問をひとつ置きます。
駅のホームで、前を歩いていた人が傘を落とした。拾って追いかけて渡したら、「すみません」じゃなくて「ありがとうございます」って言われて、なぜかこっちのほうがうれしくなった。最近、ありがとうって言われること、あんまりないのかもしれない。最後に誰かにお礼を言われたのは、いつですか?
名前も、住んでいる場所も、仕事も書いていません。それでも、ちゃんとひとりの人の手紙になっています。手紙の組み立て方と、書き出しの例文12個は、文通相手への最初の手紙にまとめました。2通目からの話題に困ったら、文通相手に聞きたい質問もあります。
返事が来ないこともあります。匿名文通では、相手の事情は見えません。忙しい週だったのかもしれないし、書きかけのまま眠ってしまったのかもしれない。1週間待って来なければ、別の誰かにもう1通。来なかった数は数えない。それが、続けるコツです。
Kindredlyのこと
最後に、わたしたちがつくっている場所のことを少しだけ。
Kindredlyは、iPhoneとウェブで、無料で使える匿名文通アプリです。誰に宛てるでもない手紙を書くと、伝書鳥が運んでいきます。届く先は、まず書き方の似た見知らぬ人の机。プロフィールも、写真も、スワイプもありません。
- 相手に見えるのは、No. 4207のような番号と、マス目の顔だけ。
- お互いに5通ずつやりとりしたら、ふたりが望めば名前を交わして「心友」に。ずっと番号どうしのままでもかまいません。
- 見知らぬ人に届く手紙は、届く前に安全チェックを通ります。
- 通報もブロックもワンタップ。別々の3人から通報された書き手は、自動で手紙を送れなくなります。
- 使えるのは18歳以上だけです。
- 机に届く見知らぬ人の手紙は1日15通、自分から出す新しい手紙は1日5通。文通の中で交わす手紙は、何通でも。
- 10言語に対応していて、机には翻訳ボタンもあります。
くわしくは、Kindredlyのしくみ、安全について、知らない人と手紙で話すことのページにまとめてあります。
名前も知らない誰かに、名前を伏せて書く。それだけのことなのに、書き終えると少し肩が軽くなっていたりします。どこではじめるにしても、最初の一通は、本当のことから。